3.2.0. コンピューターとネットワークのあり方の変化

 前章で述べたように、私の基本認識は、二〇世紀後半以来、第一次情報革命と第三次産業革命が同時並行的に進行しているというものである。第三次産業革命は、IT(情報技術)およびコンピューター産業を主導技術および主導産業として出現し、二一世紀初頭の現在、その「出現の成熟」の局面に入りつつある。つまり、コンピューター産業自体は、その成熟局面に入りつつある。同時に、第三次産業革命は、全体としてみれば突破の局面をも迎えつつあって、これまでのコンピューター産業に代わる新しい主導産業の出現が期待され始めている。その有力な候補としては、新素材の源泉としてバイオ技術やナノ技術に立脚する産業と、それを利用した人間とのコミュニケーションやコラボレーションを行う能力を備えた新しいタイプのロボットや、誰でもそれを使用して自分の好みの機械を製造できる万能工作機械産業などがあげられそうである。そして恐らく今世紀の後半には、認知科学の技術化、産業化が生み出す新しいサービス産業の展開を通じて、成熟の局面に歩みいっていくだろう。(図3.2.1参照) *1

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 しかしここでは、第三次産業革命の全体としての展開過程についてあれこれ想像をめぐらすことはしないで、その出現局面だけに、そしてそれを主導したコンピューター産業の進化過程だけに、注意を集中することにしよう。前節で見たような第一次情報革命の出現局面の中での智民の進化は、それと同時並行的に起こっていた第三次産業革命の出現局面を主導したコンピューター産業の進化と、緊密に相互関連している――つまり、共進化している――に違いないからである。それでは、第三次産業革命が「出現の出現」から「出現の突破」をへて「出現の成熟」へと向かう過程での、コンピューターとその産業の進化はどのような形で進んだのだろうか。恐らくその姿は、図3.2.2のように要約できるだろう。
 
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*1 : 第三次産業革命の突破と成熟の見通しについては、Roco/Bainbrigdge[二〇〇三]から示唆を受けるところが大きかった。なお、一九世紀後半から始まり、現在その成熟の最終局面にさしかかっている第二次産業革命の場合は、一九世紀後半に重化学工業で「出現」し、二〇世紀前半に加工組立型の耐久消費財産業(乗用車と家電)で「突破」し、二〇世紀後半にサービス産業(金融、法律、医療、教育、メディア、流通、旅行、建設等)で「成熟」したとみられる。ただし、これはアメリカの場合であって、日本の第二次産業革命は、全体としてみれば、それよりもほぼ半世紀遅れてアメリカの後を追っているといってよいだろう。

目次

第一章:自前主義と創発する革命
1.1. ディーン・フォー・アメリカ
1.2. イトーの唱える創発民主制
1.3. 住民プロデューサー
1.4. J-Kids大賞
1.5. オープンソースと共の理念

第二章:社会変化を捉える眼
2.1.1. 社会変化のS字波
2.1.2. S字波に関する注記:
2.2.0. 近代化過程へのS字波的視点の適用
2.2.1. 深度0の眼:諸文明の継起
2.2.2. 深度1の眼:近代化の三局面
2.3.3. 深度2の眼:近代化の三局面のそれぞれを対象とする分析
2.4.4. より高深度の眼:深度3および深度4の眼
2.3. 日本の西欧型近代化

第三章:共進化する智民たちとコンピューター
3.0. (前章における「S字波のレンズ」を通じて社会変化過程を見る眼についての整理)
3.1.1. 知識の生産様式の変化と「智民」の出現:個別科学(ディシプリン)からトランスディシプリナリーな知識へ
3.1.2. 最初の智民としてのテクノクラート(スーツ)
3.1.3. ハッカーズ:対抗智民
3.1.4. ギークス:智民の進化
3.1.5. ギークスから子供たち(キッズ)へ
3.1.6. 新型の社会集団の誕生:「ネットワーク」とNGO-NPO-CSO
3.1.7. 社会システムとしてのネットワーク
3.1.8. スマートモブズ:第一次情報革命の「出現の成熟」局面での智民
3.2.0. コンピューターとネットワークのあり方の変化
3.2.1. モバイルでユビキタスな「解放システム」
3.2.2.0. ウェアラブル・コンピューターと知覚するモノたち(成熟局面でのコンピューター(とそのネットワーク)の主要な特徴)
3.2.2.1. (再)身体化
3.2.2.2. 環境化
3.2.2.3. リアル化
3.3.0. 戦後日本の社会変化
3.3.1. 1945-1990:形成局面:戦後民主主義者→新左翼→新人類
3.3.2. 1975-2020 出現局面:狭義オタク→広義オタク→ネッター
3.2.3. 2005-2050 突破局面:スマートモブズ(?)

第四章:共の原理と領域
4.1.0. 近代社会の三つの原理と領域:公・私・共
4.1.1. 通時的視点と共時的視点
4.1.2. 公の原理と領域
4.1.3. 私の原理と領域
4.1.4. 共の原理と領域
4.2.0. 可視社会の中での監視とプライバシー
4.2.1. 監視とその二つの顔
4.2.2.プライバシーを護る仲介者
4.3.1. コモンズと共貨:「コモン・リソース」と「フリー・リソース」
4.3.2. ハーディン対オストローム
4.3.3. ローカル通貨
4.3.4. 共貨の基本的特質
4.3.5. 共貨への期待と障害

第五章:情報社会の新しい秩序
5.1.0. 創発(イマージェンス)と同調(シンク)
5.1.1. 創発(イマージェンス)
5.1.2. 同調(シンク)
5.2. ノンゼロ性と協力
5.3.0. ベキ法則
5.3.1. 貢献と報酬のベキ分布
5.3.2. 社会的ネットワークとベキ法則
5.3.3. ベキ法則への対処
5.3.4. 物理的制約下の正規分布から情報自由下のベキ分布へ
5.4. おわりに
5.5. 付記 情報社会の運営原則

巻末
あとがき

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