年頭のご挨拶–2008年にむけて

会津泉

明けましておめでとうございます。皆様に年頭のご挨拶をお届けします。
(2008年1月6日)

今年もインターネットと社会の関係について市民・利用者の立場から研究・実践するという基本姿勢は変えずに、主として以下のテーマに取り組もうと考えます。

・インターネットガバナンス
ICANNおよびインターネットガバナンスフォーラム(IGF)への参加を中心に、グローバルなネット社会のあり方についての探究を続けたいと思います。なかでも2010年頃と予想されるIPv4アドレスの枯渇への対応は重要と思います。また、IGFで採用された政府、産業界に市民社会が加わる「マルチステークホルダー」方式を日本でも本格的に実践することも重要と思います。
ただし、「業界内部」の問題だけでなく、地球環境、平和・安全、開発など、人類全体にかかわるより大きなテーマとネット社会との関連を考えて取り組むこと必要性を痛感し、新しい研究会の開催を考えたいと思っています。

・「ネット中立性(を超えて)」
昨年総務省のネット中立性懇談会に参加しことがきっかけで、向こう数年間、日本のネットワークをめぐる政策課題を、国際的な議論として展開するニーズが見えてきました。次世代ネットワーク(NGN)やインターネットの次の展開が鍵になると思います。

・セキュリティとモラル
情報社会の進展は、新たな課題を生んでいます。昨年のエストニアへのサイバー攻撃が示したように、情報セキュリティが国家の安全保障にも大きな影響を与える可能性が高まってきたと思われます。一方、学校やコミュニティ、中小企業などの現場で、情報セキュリティ対策を有効に推進するためには、一人ひとりの意識・態度(情報モラル)の啓発が必要と考えられます。これらについての研究・実践活動を進めていきます。

・IDマネジメント
セキュリティの調査のなかから浮上してきたテーマで、情報社会の基礎単位として、デジタル化されたアイデンティティ(ID)をどう管理するかということが、政府、企業、そして個々人にとって、これからの重要な政策課題になると考えられ、なんらかの問題提起をしたいと思います。

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2007年を振り返ると、3月に、1991年の設立以来かかわり続けてきた、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)を離れたことが大きな意味がありました。もともと公文俊平先生に手伝うように声をかけられ、初代所長、故村上泰亮先生の「面接試験」を経て新しく発足する研究チームに加えていただいたという経緯がありました。

GLOCOMでは、日本とアジアにインターネットを普及させることを最大の使命に活動しました。1997年から2000年まではマレーシアに「アジアネットワーク研究所」を開き、主にアジアのインターネットの普及活動に従事しました。2000年4月に日本に戻ってからは、アジア・途上国を含むインターネットのグローバル・ガバナンスを主な活動領域としてきました。その後GLOCOMの体制が変わり、残念ながらこうした活動を続ける余地がなくなったと感じ、2004年に新設された多摩大学情報社会学研究所に移りましたが、GLOCOMにも客員研究員として残りました。

その後GLOCOMの状況はさらに変化し、公文先生が経営から退かれ、2007年3月をもって研究活動からも離れられたことで、私も去ることを決意しました。7月に開かれた「公文俊平さんを囲む会」の裏方を務めたことは、一つの区切りとなりました。GLOCOMを中心とする活動についてはあらためて文章にまとめるつもりですが、いまは皆様にただ感謝を申し上げたいと思います。

以下に2007年の活動を時系列順に簡単にまとめてみました。

1月 ニューヨーク ジャパンソサエティ講演 セキュリティ調査
2月 バリ島 APRICOT会議 ICANN アジアAtLarge組織結成
3月 リスボン ICANN会議
5月 北京 CiNUM(デジタル文明フォーラム)調査
6月 ブラッセル、ロンドンほか セキュリティ調査
プエルトリコ ICANN会議
7月 東京 「公文俊平さんを囲む会」
京都 情報モラルセミナー
秋田 同
8月 上海・西安・北京 AP Star会議、中国ネット事情調査
9月 ワルシャワ、パリほか セキュリティ調査
ボルドー CiNUM会議
10月 ロサンジェルス ICANN会議
11月 大分 別府湾会議
リオデジャネイロ インターネットガバナンスフォーラム(IGF)
IPv4v6ワークショップ開催
ワシントン セキュリティ調査
高松 情報モラルセミナー
12月 ワシントン セキュリティ調査 コロキウム開催

海外出張は、計10回・114日間でした。国内では、11月に10回目の別府湾会議を大分で開きました。総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」に参加し、報告書の英訳版を「自主刊行」しました。また『ネット戦争』(NTT出版・2007年12月刊)に「情報化時代のガバナンス」という1章を書きました。
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今年も、大分に本部を置くハイパーネットワーク社会研究所と多摩大学情報社会学研究所の二組織を足場に、グローバルに貢献できる活動を続けたいと思っています。本年も変わらずご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

会津 泉