2009年のはじめに 2008年を振り返りつつ

会津泉

新年を迎えて、ご挨拶を書きます。
年の初めに、とくに「目標」や「計画」は立てないのですが、過ぎし方を思いながら来るべき道について考えてみたことを書いてみます。長くなってすみません。

昨年も、以下のように、計11回、91日海外に出張しました。ある意味ではそれが私の「本業」だと思って取り組んでいます。全般的にはインターネットのグローバルなガバナンスをめぐる議論に参加し、そのなかでもドメイン名管理を司るICANN、ガバナンス全般を議論するIGF、そしてサイバーセキュリティに関する調査が3本の柱といえます。

11月に、形を変えながら足掛け10年続けた、ICANNの「一般(個人)利用者」の代表の仕事、AtLarge Advisory Committee (ALAC)の任期が満了し、一段落したといえます。とはいえ、IPv4アドレスの枯渇とv6アドレスとの「共存」問題はこれから重要になるところで、ICANNに利用者の視点を反映させ、利用者にインターネットの管理の問題を伝えるという課題に、なんらかの形でかかわり続ける必要を感じています。

1月から衛星ブロードバンドの普及に取り組み、5月に「衛星ブロードバンド普及推進協議会」を立ち上げ、10月から12月にかけて、山梨県都留市、京都府綾部市、広島県庄原市、同じく広島市湯来町の4ヵ所で「地域実証実験」を実施しました。インターネットの普及に15年以上取り組んできたつもりですが、実際に過疎地の山奥にまで足を運んだのは、恥ずかしながら今回が初めてで、地域の厳しい現実と、豊かな自然、環境の両面を肌で感じられたことは貴重な勉強となりました。実験は無事成功裡に終了しましたが、今年は本格普及に向けた取り組みへの知恵が求められています。

2月に訪れたネパールで、たまたま無線インターネット普及のパイオニアであるマハビール・プン氏を紹介され、彼らが取り組むプロジェクトへの支援が課題となりました。プン氏は故郷であるポカラ近郊の山村へのネット利用の普及活動が評価され、2007年に「アジアのノーベル賞」ともいわれるマグサイサイ賞を受賞し、また、日本のサイエンティストらによるエベレスト直下の氷河湖の監視プロジェクトのネットワーク部分を支え、地球温暖化への取り組みにも貢献されている人です。そこで、4月に京都で日本政府と国際電気通信連合(ITU)が共催した国際会議「ITと気候変動」のスピーカーに招待してもらい、日本の関係者にも紹介することができました。さらに、12月にインドで開かれたIGFでも、「インターネットと気候変動」をテーマとしたワークショップを提案し、マハビール氏のチームメンバーが発表して好評でした。

サイバーセキュリティについては、バルト3国と東欧のモルドバを訪問し、一昨年4-5月のエストニアへのサイバー攻撃、昨年のリトアニア、グルジアへの攻撃とあわせて、旧ソ連領の共和国でのロシア系住民との摩擦が、組織的なサイバー攻撃へと進化しつつある状況を調査してきました。年末にはオバマ新政権への期待に沸くワシントンを訪問しましたが、そこでもサイバーセキュリティの重要性を新政権に訴える動きが強まっていました。クリントン=ゴア政権で活躍したマイケル・ネルソン氏が属するジョージタウン大学とわが多摩大学情報社会学研究所の共催で、新政権の課題を探る「サイバーポリシー・ラウンドテーブル」を開き、セキュリティの専門家であるCSISのジェームス・ルイス氏に、新政権への提言を中心に報告してもらいました。

国内でも、ブロードバンドの普及に付随するように、様々な問題が発生しましたが、その多くが広い意味での「ガバナンス」にかかわる問題だと理解しています。前半は、青少年への「有害情報」規制問題がホットになりました。個人的には、ブログ上でいわれなき中傷を繰り返し受けるという経験を通して、有効な対策が必ずしも存在していないことに気づき、あらためてサイバースペースの特性に適した形でのガバナンスを創造する必要性を感じることとなりました。

総務省による「インターネット政策懇談会」「通信プラットフォーム研究会」では、やはりブロードバンドの普及に伴って新しいビジネス、競争をどう促進するか、利用者の権利、メリットをどう確保するのか、といった議論に参加しました。また、後半には「情報通信ビジョン懇談会基本戦略WG」「情報通信審議会インターネット基盤委員会」に加えられ、前者では日本の情報通信の総合的な方向性について、後者では今年始まろうとしている新しい国別ドメインである「ドット日本(仮)」のあり方についての議論に参加しています。

ブロードバンドによる新しい競争については、「ネット中立性」などのテーマで国際的にも論議が続いており、11月に日経デジタルコアのワークショップでこの問題を取り上げて議論しました。オバマ政権は遅れをとった米国でのブロードバンド普及に力を入れる方針を表明しており、今後日米を中心に国際的な議論を進める必要があると思われます。

大分に本部があるハイパーネットワーク社会研究所は今年創立16年目を迎えます。最近は「情報モラル」への取り組みが中心となり、全国を回ってセミナーを続けてきました。2007年度も兵庫、三重、札幌、山形と開催し、2月に宮崎で5回目を予定しています。

昨年は、大学院での授業にも取り組みました。新設された慶應義塾大学メディアデザイン大学院(KMD)で、4月から6月にかけて毎週、「インターネットガバナンス」について講義しました。ほとんど何も知らない人たちにインターネットガバナンスについてわかりやすく、かつ詳細に伝えるということはなかなか難しいということを実感しました。

国際的なネットのガバナンスに取り組む人材は今後、ますます必要になると思います。日本の教育の体制がそれに即応したものかというと些か心もとないところですが、とにかく自分でできることから取り組むことの重要性を感じます。

さて、今年ですが、これまで書いてきたテーマはいずれも継続して取り組む必要を感じています。とはいえ、何もかもというわけにはいけませんので、「選択と集中」を心がけることも大事だと思っております。1952年の生まれですから50代も後半となり、健康面でさしたる異常はないのですが、やはり若いときほどの無理はきかなくなってきたなと思います。運動を増やし、体重を減らすことも課題になっています。

長々と書き綴ってきましたが、皆さまには変わらぬご指導とご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2009年1月5日
多摩大学情報社会学研究所 ハイパーネットワーク社会研究所
会津 泉

2月
デリー ICANN会議 続いてネパール訪問

台北 アジアのインターネット関係者による会議APRICOT

3月
ワシントンDC MetaNet25周年、Freedom to Connect 会議

5月
サンノゼ IBMアルマデン会議

6月
ソウル OECD The Future of Internet Economy 会議

10月
マドリッド Information Security Solution Europe 2008

11月
カイロ ICANN会議
ブラッセル、ヘルシンキ、タリン(エストニア)、ビルニス(リトアニア)、リガ(ラトビア)、キシュナウ(モルドバ)、ウィーン サイバーセキュリティ調査

12月
ハイデラバード インターネットガバナンスフォーラム(IGF)

ニューヨーク、ワシントン サイバーセキュリティ調査